家具を売るより、「家具が必要になる瞬間」を押さえる
ニトリが家電事業を強化している。
家具だけでなく、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの家電まで自社で揃えるようになれば、ニトリは「家具屋」から、暮らし全体を提供する会社へと近づいていく。
このニュースを見ながら、不動産屋として少し違うことを考えた。
大事なのは、商品を売ることではなく、その商品が必要になる瞬間を押さえることではないか。
ニトリだけで「暮らし」がほぼ完成する
今のニトリの商品を見ていると、賃貸住宅のホームステージングはかなりのところまで一社でできる。
ソファ、ダイニングテーブル、ベッド、収納、カーテン、照明、ラグ、食器。
そこに冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テレビなどの家電まで加われば、空っぽの部屋を「すぐ生活できる空間」に変えられる。
不動産屋からすると、これは面白い。
賃貸物件は普通、何も置かれていない状態で募集する。
しかし家具や家電を配置すると、
「6畳の洋室」
だったものが、
「ここにベッドを置いて、朝起きて、ここでコーヒーを飲む生活」
に変わる。
つまり、不動産を「箱」ではなく「暮らし」として見せられる。
不動産を舞台化する、と言ってもいい。
家具にこだわりたい人ばかりではない
もちろん、自分で家具を選びたい人は多い。
新築住宅を買った人などは、むしろ家具選びそのものが楽しいだろう。
しかし、すべての住み替えがそんな幸福な状況で起こるわけではない。
例えば離婚後の住み替え。
急に新しい住まいを探して、冷蔵庫、洗濯機、ベッド、カーテン、照明、食器まで一から揃える。
仕事や子育てをしながら、それを全部やるのは大変だ。
そんな時、
「ニトリだろうが何だろうが、とりあえず全部揃っていて、今日から普通に生活できる」
ということ自体に価値がある。
この人たちは「家具付き住宅が好きな人」ではない。
「住まいを立ち上げる余力がない人」だ。
ここには明確な需要があると思う。
では、不動産屋が家具付き住宅をやればいいのか
最初はそう考えた。
長期間空いている借家を安く借り上げて、ニトリなどで家具家電を揃える。
そして、
「今日から生活できます」
という状態にして貸す。
まさに「利は元にあり」で、安く仕入れられる空き家を見つけられれば成立する可能性がある。
ただ、考えているうちに少し違う気がしてきた。
家具家電を備え付けるということは、それらを管理するということでもある。
「冷蔵庫が冷えません」
「洗濯機から変な音がします」
「椅子が壊れました」
「テレビが映りません」
一件一件は大したことがなくても、電話を受け、状況を確認し、業者を手配し、入居者と日程を合わせ、オーナーに報告する。
問題なのは修理代より、そこに使われる人間の時間だ。
設備を増やせば、それだけクレームや問い合わせの入口も増える。
管理会社として考えると、あまり積極的に入りたい商売ではない。
自分で全部持つ必要はない
そもそも家具や家電にはリース会社もある。
販売する会社もある。
配送する会社もある。
修理する会社もある。
それぞれ専門の会社がすでに存在する。
だったら、不動産屋が家具を所有する必要はない。
ここで重要になるのが、川上を取ることだと思う。
家具を売るのではない。
家具が必要になる人と、家具が必要になる前に出会う。
例えば離婚によって住まいを探している人が不動産屋に来たとする。
その人には、このあと、
住まいが必要になる。
家具が必要になる。
家電が必要になる。
引っ越しが必要になる。
インターネット回線が必要になる。
場合によっては車まで必要になる。
不動産屋は、それらの需要が発生する一番最初のところにいる。
これは結構大きな意味を持つ。
「人が動く理由」を最初に知る
不動産屋が持っている本当の価値は、物件情報だけではないのかもしれない。
人が生活を変える瞬間に接する仕事でもある。
結婚。
離婚。
転勤。
独立。
出産。
介護。
相続。
こうした出来事が起こると、人が動き、不動産が動き、その周辺でさまざまな需要が生まれる。
だから川上を取るというのは、
「売物件を誰より早く知る」
だけではない。
「人が動く理由を最初に知る」ことなのだと思う。
ただし、すべてのライフステージを取りに行くことはできない。
少なくとも僕には無理だ。
だから、自分は「相続不動産」に絞っている。
相続不動産の「入口」を取りたい
相続不動産も、売却から始まるわけではない。
親が高齢になる。
介護が始まる。
施設への入居を考える。
実家が空く。
相続が発生する。
兄弟姉妹で話し合う。
相続登記をする。
家の中を片付ける。
そしてようやく、
「この不動産、どうしよう」
となる。
一般的な不動産仲介会社が登場するのは、そのかなり後だ。
「売りたいんですが」
と電話がかかってきてから始まる。
でも、本当の川上はもっと前にある。
「実家、これからどうしたらいいんだろう」
と思った瞬間だ。
その時に思い出してもらえる不動産屋になれれば強い。
売るかどうかは、その後に考えればいい。
売らない方がいいことだってある。
貸した方がいいかもしれない。
しばらくそのままにした方がいいかもしれない。
司法書士や税理士に先に相談した方がいいケースもある。
自分ですべてを提供する必要はない。
必要な専門家につなげればいい。
重要なのは、最初の相談相手になることだ。
「利は元にあり」の意味が変わってきた
昔から商売では「利は元にあり」と言われる。
安く仕入れれば利益が出る、という意味で使われることが多い。
不動産なら、安く物件を仕入れることを想像する。
でも仲介業の場合、「元」は必ずしも物件ではないのかもしれない。
まだ売物件になっていない。
本人も売ると決めていない。
それどころか、不動産会社に相談することすら考えていない。
そんな段階から関係を作っておく。
物件が「商品」になる前の、人の悩みの段階にいる。
これも一つの「利は元にあり」なのだと思う。
ニトリが家具だけでなく家電まで扱うのも、家電そのもので儲けたいだけではないだろう。
新生活を始める人との接点を広げれば、その先に家具も家電も生活用品もある。
川下の商品を一つずつ追いかけるより、川上の顧客接点を取る。
不動産屋も同じだ。
僕の場合、すべての人生の変化を追いかける必要はない。
「相続した実家、どうしよう」
その瞬間に思い出してもらえる存在になる。
そこを取るために、記事を書いたり、小さな本を作ったり、情報を発信したりしている。
売却を頼んでもらうためだけではない。
売却を決める前に、相談してもらうためだ。
川下で仕事を取り合うのではなく、川上で関係を作る。
これからの小さな不動産会社にとって、かなり重要な考え方になるのではないかと思っている。



