安売りではなく、ワクワクを売る——「不動産を舞台化する」という発想
マクドナルドの業績が好調だという記事を見ていて、面白いと思った。
既存店の売上が伸びているだけではない。客数も増え、客単価も上がっている。
原材料費も人件費も上がっている時代に、これはなかなかすごい。
なぜだろう。
考えているうちに、今の商売にとって大切なのは「安さ」ではなく、「お得感」と「イベント感」なのではないかと思った。
「安い」と「お得」は違う
昔のマクドナルドには「100円マック」があった。
100円でハンバーガーが食べられる。
確かに安かった。
でも、そこにある価値はかなり「価格」に寄っていたように思う。
「安いからマックに行く」
という動機だ。
一方、今のマクドナルドは少し違う。
ひるまックがある。
期間限定の商品がある。
月見バーガーが始まる。
ハッピーセットに話題の商品が登場する。
すると、
「今日はマックで食べよう!」
という気持ちが生まれる。
単に昼食を安く済ませるのではない。
そこに小さなイベントが発生している。
もちろん、お得感もちゃんと残している。
つまり、
お得感 × 限定感 × イベント感
を組み合わせているのだと思う。
安売りは価格を見る。ワクワクすると商品を見る
これはスーパーを考えると分かりやすい。
安売りを売りにするスーパーへ行くと、どうしても値札を見る。
「卵はいくら?」
「こっちの肉の方が安い」
「今日はこれが特売だ」
買うものを決めて店へ行き、できるだけ安く買う。
ところが、品質や品揃えに特徴のあるスーパーへ行くと行動が変わる。
「こんな惣菜があるんだ」
「この調味料、使ってみたい」
「今日はこの魚にしよう」
店を歩いている途中で、予定していなかったものを買ってしまう。
でも、嫌な感じはしない。
むしろ楽しい。
ここには**「何か面白いものがあるかもしれない」という期待感**がある。
安売り店では「買うものを決めてから店へ行く」。
品質や体験を売る店では「店へ行ってから買うものが決まる」。
この違いは大きい。
東京R不動産は「物件を見ること」を楽しくした
不動産にも同じことを感じる。
普通の不動産サイトは、基本的には検索ツールだ。
家賃。
価格。
間取り。
築年数。
駅からの距離。
条件を入力して、自分に合う物件を探す。
つまり、目的がある人が使うものだ。
ところが「東京R不動産」は少し違う。
引っ越す予定がなくても、なんとなく見てしまう。
変わった間取り。
古い建物。
妙に広い土間。
気持ちのいい窓。
クセのある物件。
見ているうちに、
「ここなら、こんな暮らしができそうだ」
と想像してしまう。
物件を見ること自体がコンテンツになっている。
これは不動産情報を、単なる検索データからメディアへ変えたということなのだと思う。
でも、僕は建築家ではない
ここで、自分の仕事に置き換えて考えてみた。
東京R不動産の母体には建築やリノベーションの思想がある。
物件そのものを面白く見せれば、
「ここをこんなふうに直したい」
という話につながっていく。
だから「不動産をコンテンツ化する」という戦略と建築は、とても相性がいい。
でも、僕は建築家ではない。
ならば同じことを真似する必要はない。
僕がコンテンツにしたいのは、物件ではなく「人」なのではないか。
料理を教えたい人。
ヨガを教えたい人。
占いをしたい人。
子どもに勉強を教えたい人。
コーヒーを淹れる人。
写真を撮る人。
何かを作っている人。
まだ有名ではないけれど、面白いことをやっている人は地方にもたくさんいる。
その人たちを見つけて、紹介して、活動できる場所を用意する。
そうすると、不動産の役割が変わる。
「不動産を舞台化する」
物件を主役にする必要はない。
人を主役にして、不動産を舞台にすればいい。
この考え方が、自分にはしっくりきた。
従来の不動産業は、
物件を探す。
募集する。
入居者を探す。
契約する。
そして家賃をもらう。
という仕事だった。
でも、順番を変えることもできる。
面白い人を見つける。
↓
その人を発信する。
↓
活動できる舞台を用意する。
↓
人が集まる。
↓
その場所に価値が生まれる。
↓
地代・賃料になる。
こう考えると、コンテンツそのものから無理にお金を取る必要もない。
人の紹介記事は無料でもいい。
動画も無料でいい。
イベントの告知も無料でいい。
その人が活動することで場所が使われ、その結果として不動産から収益が生まれればいい。
空室は「まだ演目が決まっていない舞台」
この考え方をすると、空き店舗や空き家を見る目も変わってくる。
普通なら、
「ここはいくらなら貸せるだろう」
と考える。
でも、
「ここなら、誰を輝かせられるだろう?」
と考えてみる。
すると、古い建物だからダメとは限らない。
駅から遠いからダメとも限らない。
豪華な内装も必ずしも必要ではない。
舞台そのものよりも、そこで誰が何をするかの方が重要だからだ。
人気の先生が毎週教室を開けば、
「あの先生がいる場所」
になる。
面白い店主が週末だけ店を開けば、
「あの人に会える場所」
になる。
建物の価値に、人の魅力が乗ってくる。
そう考えると、空室とは、
「埋めなければならない空間」ではなく、「まだ演目が決まっていない舞台」
なのかもしれない。
不動産業は「場所を貸す仕事」から変わるかもしれない
マクドナルドの話から始まって、スーパー、東京R不動産、そして自分の仕事まで考えてきた。
共通しているのは、
安くするだけでは、人はワクワクしない
ということだと思う。
価格はもちろん大切だ。
でも、「今日は何かありそうだ」と思わせることができれば、人は自分からやって来る。
そして、その期待感を生み出すのは必ずしも建物ではない。
人でもいい。
むしろ地方では、そこに可能性があるのではないかと思う。
東京のようなすごい建物を作らなくてもいい。
面白い人を見つけて、その人が輝ける場所を作る。
そして、その活動によって場所そのものの価値を上げていく。
人をコンテンツにする。
不動産を舞台にする。
その舞台の地代で、不動産を回す。
不動産会社の仕事は、空室を埋めることだけではない。
まだ舞台に立っていない人を見つけ、その人に舞台を渡すこと。
そんな不動産業があっても面白いと思う。



