「安い日本」ではなく、「外れにくい日本」へ
海外の企業が日本で商品やサービスを磨き、その成功モデルを世界へ展開する。
そんな話を見ていて、ふと思ったことがあります。
もしかすると今の日本の強みは、単純な「ジャパンクオリティ」ではなく、コストとクオリティのバランスを見極める力にあるのではないでしょうか。
高ければ良いのは当たり前
お金をかければ、良い商品やサービスをつくることはできます。
高級な材料を使う。
人員を増やす。
時間をかける。
設備にお金をかける。
当然、クオリティは上がります。
でも、それだけでは商売として成立しません。
重要なのは、
「この価格なら、どこまでのクオリティが必要なのか」
というバランスです。
日本の消費者は、このチェックがかなり厳しいように思います。
商品そのものだけではありません。
味、接客、清潔さ、待ち時間、使いやすさ、店の雰囲気。
そういったものを全部ひっくるめて、
「この値段なら満足」
「この値段でこれはちょっと高い」
と判断しています。
つまり日本市場には、商品やサービス全体のコストパフォーマンスをチェックする機能があるのではないでしょうか。
バブルと30年のデフレがつくった厳しい消費者
なぜ日本人は、これほどコストと品質のバランスに厳しいのでしょう。
一つには、日本が歩んできた経済の歴史が関係しているのかもしれません。
高度経済成長からバブルへ。
日本人は、どんどん豊かになり、良い商品やサービスを経験しました。
ところがバブルが崩壊し、その後は長いデフレの時代に入ります。
品質の良さを知っている消費者に対して、企業は価格を上げにくい。
そこで企業側は、
「価格を抑えながら、品質を落とさない」
という難しいことを何十年も続けてきました。
コンビニのおにぎりも、ファミレスも、ビジネスホテルもそうでしょう。
「この値段なら十分」という水準が、いつの間にかものすごく高くなった。
それが日本では「普通」になっています。
日本は巨大な「品質調整装置」なのかもしれない
そう考えると、日本でヒットした商品を世界へ持っていく意味も少し違って見えてきます。
日本は世界最大の市場ではありません。
人口も減っています。
だから「日本で大量に売って世界一になる」という話ではない。
むしろ、
日本市場で商品やサービスをチューニングする。
どこにお金をかけるべきなのか。
どこなら削ってもお客さんは離れないのか。
どの価格なら「また買いたい」と思ってもらえるのか。
商品だけではなく、接客や店舗運営、オペレーションまで含めて磨いていく。
そして、日本市場という厳しいチェックを通過したものを世界へ持っていく。
そう考えると、日本には製造業とはまた違った意味での「輸出力」があるのかもしれません。
そして、この話は観光にもつながる
ここでさらに面白いと思ったのが、インバウンドとの関係です。
外国人から見た日本の魅力というと、
京都、富士山、温泉、寿司、アニメ。
そんな「日本にしかないもの」に目が向きます。
もちろん、それも大切です。
でも旅行というのは、観光名所だけでできているわけではありません。
ホテルに泊まる。
電車に乗る。
コンビニに入る。
喫茶店でコーヒーを飲む。
地方の食堂で昼ご飯を食べる。
スーパーで買い物をする。
こうした普通の時間を全部合わせたものが旅行体験です。
そこで、日本の「コスパチェック機能」が効いてくるのではないでしょうか。
「どこに入っても、大外れしにくい」
日本人にとっては当たり前すぎて、気づきにくい。
でも外国人旅行者からすると、
「適当に店に入っても、大きく外しにくい」
というのは、かなり大きな価値なのではないでしょうか。
もちろん、すべてのお店が素晴らしいわけではありません。
ただ、あまりにも価格と品質のバランスが悪ければ、日本ではお客さんが離れてしまいます。
だから市場の競争の中で、一定の品質が保たれていく。
旅行者からすると、これは一種の安心感になります。
ガイドブックに載っている有名店だけを回らなくてもいい。
地方の小さな飲食店に入ってみてもいい。
普通のスーパーに行ってみてもいい。
名もない商店街を歩いてみてもいい。
「日本なら、まあ大丈夫だろう」
と思ってもらえる。
これは観光地として、ものすごく強いことだと思います。
円安は「日本を見つけてもらう入口」
今は円安もあって、外国人から見ると日本は「安い国」です。
でも、「安いから外国人が来る」で終わってしまうと、少しもったいない。
安さはあくまで入口です。
日本へ来てもらった外国人に、
「この値段で、この料理なのか」
「この宿泊料金で、ここまで清潔なのか」
「普通の店なのに、ちゃんとしているな」
と気づいてもらう。
そこから、日本の本当の価値が見つかっていく。
今まで日本は、
「日本の商品をどうやって海外へ売るか」
を考えてきました。
でもインバウンドでは逆です。
こちらから持っていかなくても、世界の人が日本まで見つけに来てくれる。
そう考えると、今は日本にとってかなり面白いタイミングなのかもしれません。
「Japan as No.1」とは違う日本の強さ
かつて「Japan as No.1」と言われた時代がありました。
日本の製造業が世界を席巻し、日本企業そのものが評価された時代です。
今は、あの時代とは違います。
でも、日本の強みがなくなったわけではないのかもしれません。
むしろ長いデフレの中で、
「この値段なら、ここまでやらなければ売れない」
という非常に厳しい市場が出来上がった。
その結果、日本の日常そのものが、世界的に見ればかなり高いコストパフォーマンスを持つようになった。
だとすれば、これから世界に評価される日本は、
「世界で一番すごい日本」ではなく、
「どこへ行っても外れにくい日本」
なのかもしれません。
そして、それは東京や京都だけの話ではありません。
むしろ普通の地方、普通の商店、普通の食堂、普通の宿。
そこに外国人が入り始めたとき、日本の観光はもう一段面白くなるような気がします。
「安い日本」から、「安心して冒険できる日本」へ。
日本人には当たり前すぎて見えなくなっているものの中に、次の観光資源が隠れているのかもしれません。



