素材を売るな。「選び方」まで設計する
業務スーパーの外食戦略から考えた、価格競争から降りるための商品設計
神戸物産が、韓国料理店を今後積極的に展開していくという記事を読みました。
神戸物産といえば、やっぱり「業務スーパー」のイメージが強い。
ただ、考えてみれば業務スーパーを利用しているのは一般家庭だけではありません。個人経営の居酒屋や喫茶店など、小規模な飲食店も日常的に買い出しに来ています。
つまり神戸物産は、ずっと前から**「飲食店の素材を供給する側」**でもあったわけです。
そこから自分たちで飲食店を展開する。
この流れを考えていると、「なるほど、これは単なる多角化ではないな」と思いました。
素材から「商売そのもの」へ
神戸物産には、食材を安く調達し、加工し、物流に乗せる仕組みがあります。
これまでは、その食材を「商品」として業務スーパーで販売してきました。
でも、その先があります。
食材を組み合わせてメニューを作り、店舗をデザインし、オペレーションを標準化し、ブランドを作る。
すると「食材」という素材が、「韓国料理店」という一つの商品になります。
さらに店舗運営を仕組み化してFC展開すれば、最終的には**「商売そのもの」が商品になる。**
この構造、どこかで見たことがあります。
ホームセンターのリフォーム事業です。
ホームセンターも、もともとは木材、壁紙、トイレ、給湯器などの「素材」を売る商売です。
そこから、
「材料を売る」
↓
「リフォームを請け負う」
↓
「施工方法を標準化する」
↓
「事業としてパッケージ化する」
と進んでいく。
神戸物産も同じように、
「食材を売る」
↓
「料理として提供する」
↓
「店舗運営を標準化する」
↓
「飲食事業としてパッケージ化する」
という方向へ進める。
つまり、素材を売る会社から、素材の使い方を売る会社へ変わっていくわけです。
素材のままだと価格比較される
ここからが、僕には特に面白いところでした。
素材というのは、ものすごく比較しやすい。
肉なら100グラムいくら。
トイレなら同じ品番がいくら。
不動産なら坪単価や家賃がいくら。
インターネットで検索すれば、すぐ横並びになります。
だから素材をそのまま売っている限り、
「同じものなら安い方がいい」
という価格競争から逃げにくい。
ところが、素材をパッケージ化すると比較基準が変わります。
食材を買うなら値段を比較する。
でも韓国料理店へ食事に行くときに、その店が肉をいくらで仕入れているかなんて普通は調べません。
比較するのは、
「楽しそう」
「美味しそう」
「この雰囲気が好き」
「友達と行きたい」
といった別の基準です。
つまり、素材検索をさせない。
これが価格競争から降りる一つの方法なのだと思います。
ブランドとは「比較基準」を作ること
そう考えると、ブランドの見え方も少し変わってきます。
ブランドというと、ロゴやデザイン、知名度などを想像しがちです。
でも、本当のブランドの強さは、
「お客さんが何を基準に比較するのかを変えてしまうこと」
なのかもしれません。
素材のままなら、
「いくら?」
「何㎡?」
「どんなスペック?」
で比較される。
パッケージ化されると、
「自分に合う?」
「便利?」
「楽しそう?」
になる。
そしてブランドが強くなると、
「これが欲しい」
になる。
ここまで来ると、競合より100円安いとか、少し性能がいいという競争からかなり離れられます。
つまり商品設計とは、商品そのものを設計するだけではない。
お客さんの「選び方」まで設計することなのだと思います。
市場調査をすると、普通の商品になる?
ここまで考えていて、もう一つ疑問が出てきました。
「商品を作る前に市場調査をする」というのは、本当に正しいのだろうか。
もちろん市場調査そのものが悪いわけではありません。
問題は、何を調査するかです。
たとえば貸店舗の商品を作ろうとして、
「周辺の家賃はいくらか」
「人気の広さは何坪か」
「駐車場は何台必要か」
「競合物件には何が付いているか」
と調査する。
すると出来上がるのは、
「競合より少し安くて、少し便利で、少しきれいな貸店舗」
になりがちです。
当然、お客さんも同じ基準で比較します。
これでは、自分から比較表の中に入りにいっているようなものです。
むしろ市場調査で見るべきなのは、
「今の商品では、なぜ満たされていないのか」
ではないでしょうか。
競合が何をしているかを調べて、その真似をするのではない。
競合各社が共通して疑っていない前提を探す。
そこに新しい商品を作る入口があるように思います。
Appleが強い理由も、そこにあるのかもしれない
この話を考えていて思い浮かんだのがAppleです。
Appleは「市場調査をしない会社」と言われることがあります。
正確には、市場調査をまったくしないというより、市場調査に商品の最終判断を委ねない会社と考えた方がいいのでしょう。
「お客さんは何が欲しいと言っているのか?」
よりも、
「自分たちは、これを本当に良いと思うか?」
を大切にする。
言ってみれば、
「これはクールか?」
という自分たち側の判断基準を持っている。
クールというのも単に格好いいということではなく、
美しいか。
直感的か。
余計なものがないか。
使って気持ちいいか。
自分たちが誇れるものか。
そういう会社内部の価値基準です。
もし既存の携帯電話市場だけを徹底的に調査して商品を作っていたら、「もっと電池が長持ちする」「もっと小さい」「もっとボタンが押しやすい」という方向へ行っていたかもしれません。
でもiPhoneは、携帯電話という商品の比較基準そのものを変えてしまった。
これは非常に象徴的です。
市場に答えを聞く前に、自分たちの基準を持つ
だからといって、顧客の声を聞かなくていいわけではありません。
大事なのは順番なのだと思います。
最初から市場に、
「何を作れば売れますか?」
と答えを聞かない。
まず、
「自分たちは何を良いと思うのか」
を決める。
そこから、
「この考え方を必要としている人は誰なのか」
「今の選択肢の何に困っているのか」
「どうすればこの価値が伝わるのか」
を調べる。
つまり、
市場調査 → 商品
ではなく、
自分たちの価値基準 → 仮説 → 市場調査 → 商品
という順番です。
市場調査は「正解を探す道具」ではなく、自分たちの仮説を磨くための道具として使う。
素材を見たら「もう一段上」を考える
神戸物産の記事から始まった話ですが、これはいろいろな商売に当てはまりそうです。
食材なら、料理へ。
建材なら、リフォームへ。
空き店舗なら、「場所を貸す」から「そこで商売を始められる仕組み」へ。
素材そのものを変えなくても、使い方を設計することで別の商品にできる。
そして、その商品に思想や世界観が加わればブランドになる。
最終的には、そのブランドが「何を基準に選ぶべきか」をお客さんに提示してくれる。
そう考えると、価格競争から降りる方法は意外とシンプルなのかもしれません。
安く売らないことではない。
価格で比較される商品を作らないこと。
そのためには、素材をそのまま売るのではなく、
「この素材を、何の商品として再定義するか?」
を考える。
そしてもう一歩踏み込めば、
「お客さんに、何を基準に選んでもらいたいのか?」
まで決める。
商品を設計するというのは、そこまで含めた仕事なのかもしれません。



