「自由な場所」より「制限された場所」が面白い
空き物件の弱点から、新しいサードプレイスをつくる
先日、「O3 Space」という場所が人気になっているという記事を見ました。
いわゆるコワーキングスペースに近いのですが、面白いのは、かなりはっきりと**「勉強する場所」**に用途を絞っていることです。
普通のコワーキングスペースなら、仕事をする人もいれば、本を読む人もいる。打ち合わせをする人もいるでしょう。
O3 Spaceは、そこをもっと限定している。
「ここは勉強する場所ですよ」
と最初から条件を決めているわけです。
記事をきっかけに考えていると、これは単なる自習スペースの話ではなく、空き家や空き店舗の使い方にもつながる話なのではないかと思いました。
空間ではなく「空気」を設計する
スポーツクラブを考えると分かりやすいと思います。
スポーツクラブに行けば、トレーニングウェアを着た人がいて、トレーニング器具が並んでいて、みんな運動しています。
そこで本を読んではいけないわけではないでしょうが、わざわざスポーツクラブへ行って読書をする人はほとんどいません。
なぜなら、
「ここは運動する場所だ」
という空気ができているからです。
でも、その空気は自然発生したわけではありません。
運動するための設備を置き、運動する人を集め、運動するためのルールを作った。
つまり、
条件を設計した結果として、空気が生まれている。
O3 Spaceも同じです。
勉強しやすい設備を整えるだけではなく、利用方法や料金などの条件を決めることで、「勉強する人」が集まる場所になっている。
ここが非常に面白いと思いました。
自由にするためには、制限が必要なのかもしれない
場所を作るとき、つい、
「いろいろなことに使えた方がいい」
と考えてしまいます。
用途を広げた方がお客さんも増えそうだからです。
ところが、逆なのかもしれません。
何でもできる場所は、何をする場所なのか分からない。
一方で、
「ここは勉強する場所です」
「ここは運動する場所です」
と制限されると、その目的を持った人にとっては非常に使いやすい。
つまり、
制限する
↓
利用する人が選ばれる
↓
人の行動が揃う
↓
独特の空気が生まれる
↓
その空気の中では自由に行動できる
ということです。
制限は自由の反対ではなく、
「どんな自由を作るのかを決めるもの」
なのかもしれません。
建物をリビルドするのではなく、「空気」をリビルドする
建物は一度建ててしまうと、簡単には変えられません。
20年、30年と使うことを前提に作られています。
もちろんリノベーションすれば用途を変えられますが、それなりのお金が必要です。
ところが、空気はもっと安く作り直せる。
「誰が使うのか」
「何をしていいのか」
「何をしてはいけないのか」
「何人までなのか」
「何時から何時までなのか」
こうした条件を変えるだけでも、同じ建物がまったく違う場所になります。
私はこれを、
「空気のリビルド」
と考えると面白いのではないかと思いました。
物件の「弱点」から考えてみる
さらに面白いのは、空き物件の弱点です。
不動産屋をしていると、
「駐車場が少ない」
「建物が小さい」
「人通りが少ない」
「大人数が入れない」
「立地が中途半端」
といった物件は、どうしても評価が低くなります。
普通なら、
「この弱点をどうやって解消するか」
を考えます。
でも、逆に考えてみたらどうでしょう。
「この弱点を残したまま成立する使い方は何だろう?」
駐車場が1台しかない。
だったら、1対1で使う場所にする。
狭い。
だったら、大人数を集めない。
人通りが少ない。
だったら、飛び込み客を必要としない完全予約制にする。
つまり、
弱点そのものを利用条件に変えてしまう。
弱点に違う方向から光を当てることで、長所が見えてくる可能性があります。
東京R不動産の、その先
この考え方をしていて思い浮かんだのが、東京R不動産です。
古い。
変わった間取り。
駅から遠い。
普通の不動産広告ならマイナスになる特徴に違う光を当てて、「この物件だから面白い」と価値を再定義した。
ただ、今回考えていることは、その先なのかもしれません。
物件の弱点を魅力として見せるだけではなく、その弱点から「使い方」まで設計する。
例えば、
「駐車場が1台しかありません」
ではなく、
「駐車場が1台しかないので、1対1でじっくり教える場所にしました」
とする。
同じ物件なのに、意味がまったく変わります。
すでにヒットしているものは、再定義が終わっている
もう一つ思ったことがあります。
すでに人気になっているものは、誰かによって価値の再定義が終わっている可能性が高い。
古民家、倉庫、町家などもそうです。
昔なら「古い建物」と評価されていたものが、今ではその古さ自体が価値として認識されています。
だから、新しい事業を考えるなら、
「人気のあるものを探す」より、「まだ人気のないものを見る」
方が面白いのかもしれません。
なぜ人気がないのか。
その理由をなくすのではなく、
「その人気のなさを生んでいる条件を、そのまま利用できないか?」
と考える。
そこに、まだ再定義されていない市場があるように思います。
「教える」は、まだ面白いマーケットかもしれない
そこで私が考えているのが、
「教えるためのサードプレイス」
です。
何かを教えたい人がいたとします。
一番簡単なのは自宅です。
しかし、知らない人を自宅へ招くことには心理的なハードルがあります。生活空間も見えてしまいます。
だからといって、いきなりテナントを借りるのも大変です。
まだ生徒が集まるかどうか分からないのに、毎月家賃を払わなければならない。
自宅で始めるには抵抗がある。
店を借りるにはリスクが大きい。
この間が、意外と空いているのではないでしょうか。
「先生になる前」の場所をつくる
だったら、
教えることに用途を限定した、小さなサードプレイス
があってもいい。
英会話でもいい。
書道でもいい。
着付けでもいい。
AIの使い方でもいい。
自分の仕事で身につけた知識を誰かに教えてもいい。
内容については自由です。
ただし、
「自分の知識・経験・技術を誰かに伝える」
という行為だけは共通している。
ここを制限する。
すると、「何でもできるレンタルスペース」ではなく、
「教えてみたい人が集まる場所」
という空気が生まれてきます。
最初から店を持たなくていい
教室を始める人にとっても、
自宅 → テナント
といきなり飛ぶ必要がなくなります。
その間に、
テスト出店
という段階を作ることができる。
月に1回やってみる。
毎週水曜日だけやってみる。
生徒が3人集まったら続けてみる。
うまくいかなければやめる。
うまくいけば回数を増やす。
そして、本当にお客さんが増えれば自分の店舗を持てばいい。
音声でも話していたように、「プレオープン」「テスト出店」ができる場所という考え方です。
これなら、先生側のリスクはかなり小さくできます。
O3が「学ぶ人」なら、「教える人」のサードプレイスもある
ここまで考えると、O3 Spaceとの違いも見えてきます。
O3 Spaceが、
「学ぶ人のサードプレイス」
だとすれば、私が考えているTeachStartは、
「教える人のサードプレイス」
なのかもしれません。
部屋を時間貸しすることが目的ではありません。
地域には、
「実は人に教えられることを持っている」
という人がたくさんいるはずです。
でも、その人たちの多くは先生ではありません。
店舗もありません。
生徒もいません。
だから始めない。
その最初のハードルを下げる場所を作る。
すると、
地域に眠っていた「教えられること」が、小さく市場に出てくる。
これは「レンタルスペース」というより、小さな“教えるマーケット”を作ることなのだと思います。
弱点を直すのではなく、弱点からサービスをつくる
これまで不動産は、
弱点をなくして、できるだけ多くの人に選ばれる物件にする
ことを考えてきました。
でも人口が減り、空き家や空き店舗が増えていく時代には、違う考え方も必要なのかもしれません。
すべての人に使ってもらおうとしない。
物件がすでに持っている制約を観察する。
そこから利用条件を決める。
その条件に合う人だけに来てもらう。
すると、そこに独特の空気が生まれる。
弱点
→ 制限
→ 利用者の選別
→ 行動が揃う
→ 空気が生まれる
→ 新しい価値になる
という流れです。
建物そのものを大きく変えなくても、「そこで何をする場所なのか」を変えれば、不動産の価値は変えられる。
空き物件に必要なのは、設備を足すことだけではなく、
「何をさせないか」を考えることなのかもしれません。
そして、その制限の中に生まれる自由こそが、新しいサードプレイスを作るのではないか。
そんなことを、O3 Spaceの記事を見ながら考えました。



