価格競争から降りる勇気
「安く作る力」を、「安く売るため」に使わない
ビッグマック指数が40周年を迎えた、という記事を読みました。
世界各国のビッグマックの価格を比較して、通貨の購買力を考える有名な指標です。
その中で日本を見ると、やはり安い。
円安の影響はもちろんありますが、見ていて別のことが気になりました。
日本企業って、安く調達する努力がものすごいんじゃないか。
ということです。
「安い日本」は円安だけなのか
ビッグマック一つを作るにしても、牛肉、小麦、野菜、包装資材が必要です。
それを店舗まで運ぶ物流があり、店舗には家賃があり、電気代があり、人件費があります。
それらを全部組み合わせて、一つの商品として一定の品質で提供する。
しかも日本の場合、
「安いけど、まあこんなもんだよね」
では、なかなか許してもらえません。
安くても、きれいで、早くて、品質が安定していることを求められる。
企業側も、それに応えるために長年改善を続けてきたのでしょう。
仕入れを見直す。
物流を効率化する。
廃棄を減らす。
オペレーションを標準化する。
人員配置を改善する。
そうやって、
「この品質を、どうすればもっと安く提供できるか」
を何十年も考えてきた。
これは日本企業のものすごい能力だと思います。
でも、安く作れたら、なぜ安く売るのか
ここで少し疑問が出てきます。
100円の商品で 原価が80円かかっていたものを、企業努力によって70円で作れるようになった。
すると、
「じゃあ90円で売ろう」
となりがちです。
競合より安くできれば、お客さんは来てくれる。
確かに合理的です。
でも、それを繰り返していると、せっかく生み出したコスト削減分を、全部消費者に渡してしまいます。
企業には利益が残らない。
賃金も上げにくい。
仕入れ先にも厳しい価格を要求する。
そして、またコストダウンを求める。
どこかで限界が来ます。
だったら、
70円で作れるようになっても100円で売ればいい。
さらに価値を高めて、110円で売れる商品にしてもいい。
コストダウンによって生まれた利益を、賃金や設備、商品開発、サービス、デザインなどに再投資する。
そうすれば、また商品の価値が上がります。
つまり必要なのは、
「安く作る力」と「高く売る力」の両立
なのではないでしょうか。
値下げは一番簡単
商売をしていると、売れないときに最も簡単なのが値下げです。
競合が100円なら90円。
90円なら80円。
価格は数字なので比較もしやすい。
そして実際、安くすれば売れる可能性は高くなります。
だから値下げには即効性があります。
でも怖いのは、
「値下げしたら売れた」
という成功体験です。
すると、
「やっぱり売れなかった原因は価格だった」
と思ってしまう。
本当は違ったかもしれません。
商品の見せ方を変えれば売れたかもしれない。
違う客層に届ければ売れたかもしれない。
使い方を提案すれば売れたかもしれない。
サービスを加えれば売れたかもしれない。
商品の背景にある考え方を伝えれば、価格に納得してもらえたかもしれない。
値下げすると、そうしたことを考えなくても売れてしまいます。
だから簡単なのです。
ブランディングは「高級に見せること」ではない
そこで必要になるのがブランディングです。
ブランディングというと、ロゴを格好良くしたり、店舗をおしゃれにしたり、高級感を出したりすることを想像します。
でも本質はもっと単純だと思います。
「なぜ、この価格でもあなたから買うのか」
その理由をつくることです。
品質かもしれない。
安心感かもしれない。
専門性かもしれない。
接客かもしれない。
デザインかもしれない。
思想への共感かもしれない。
何でもいい。
価格以外の比較軸をつくる。
それができれば、競合より少し高くても選んでもらえます。
コストダウンとブランディングは反対ではない
ここが今回、一番面白いと思ったところです。
一見すると、
「コストダウンする会社」と「ブランドを作る会社」
は反対方向に見えます。
でも、本当は同時にやるべきなのではないでしょうか。
裏側では徹底的にコストを下げる。
そして、
表側では徹底的に価値を上げる。
その結果として利益を残す。
コストダウンを「値下げするための技術」ではなく、利益を生み出すための技術として考えるわけです。
そしてブランディングは、その価値をきちんと価格に変える技術です。
この二つが揃えば強い。
「安くできる。でも、安く売らない。」
日本企業には、すでに「安く作る能力」が相当蓄積されているように思います。
長いデフレの中で、
どうすれば値上げせずに済むか。
どうすれば品質を落とさずコストを削れるか。
どうすれば同じ人数でもっと効率よくできるか。
それを延々と考えてきました。
だから次に必要なのは、その能力を捨てることではありません。
使い方を変えることです。
安く作れるようになったから、安く売る。
ではなく、
安く作れるようになったから、利益を残す。
その利益で、もっと価値を上げる。
そして、さらに高い価格でも選ばれるようにする。
この循環に変えていく。
究極的には、
安くできる。でも、安く売らない。
という状態が強いのだと思います。
価格競争から降りる
これは簡単ではありません。
値下げすれば売れるかもしれない。
値下げしなければ、売れないかもしれない。
だから怖い。
それでも、
「もっと安くできます」
ではなく、
「この価格でも、私たちを選んでもらえる理由は何だろう」
と考える。
そこから商品開発も、サービスも、接客も、デザインも変わっていくのでしょう。
日本は長い間、「安くて良いもの」を作ることを磨いてきました。
それは間違いなく強みです。
ただ、これから必要なのは、
「安くて良い」から「高くても選ばれる」への転換
なのかもしれません。
そのために最初に必要なのは、新しい設備でも、新しい技術でもない。
案外、
価格競争から降りる勇気。
なのではないでしょうか。



